他人の土地上に建物を建てて居住しているときには、その土地上に「借地権」を設定していますが、建物を他人に譲渡しようとした際、地主が借地権の譲渡を承諾せずにトラブルになることがあります。
法律上、借地権の譲渡には地主の許可が必要とされているので、原則的には地主が承諾しない限り借地権譲渡ができないことになってしまうからです。
このような場合、一定の要件のもとに裁判所が借地権譲渡の承諾に代わる許可をすることができると規定されています。
そこで今回は、借地権譲渡についての地主の承諾に代わる裁判手続きの方法について、具体的なケースをもとに、解説します。
1.借地権の譲渡を地主が承諾してくれない!
他人の土地上に建物を建てて借地権を設定している場合、建物を譲渡する場合には地主の承諾が必要です(民法612条1項)
この規定に違反して勝手に借地権を譲渡した場合には、地主は賃貸借契約を解除することができます(民法612条2項)
しかし、借地上の建物も、売却したい場合や人に貸したい場合があります。このような場合、地主が譲渡や転貸を承諾してくれないことでトラブルになることが多いです。
以下で、具体的なケースを見てみましょう。
Aさんは、30年前からBさんの土地上に自宅建物を建てて居住してきました。
もちろん地代の支払に遅れたことはありませんし、今までBさんとトラブルになったこともありませんでした。
しかし、Aさんの子供達も独立して広い家が不要になったことから、Aさんは、自宅を売却して妻と2人でマンション暮らしを始めたいと考えました。
そこで自宅の売却手続をすすめて、借地権ごと買い取りたいという買主(Cさん)を見つけることができました。
このことをAさんがBさんに報告すると、Bさんは「Cという人間に建物を売るなら勝手に売れば良いが、借地権の譲渡は認めない」と言い出しました。
Bさんが承諾しない限り、建物の買主であるCさんは土地を利用することができないので、建物を取り壊すしかなくなってしまいます。
もうすでにCさんと売買契約を締結してしまったのにBさんの承諾を得られないので、Aさんは困り果ててしまいました。
2.裁判所に許可してもらえる!
Aさんのように、地主に借地権譲渡を許可してもらえない場合、は裁判所に申立をして「借地権の承諾に代わる許可」をしてもらうことができます。
本件のような場合、Aさんは建物の譲渡も転貸もできませんが、このようなことはAさんにとっては大変な不都合です。
Bさんが承諾しない限り、一生建物を所有していないといけないと言うことになってしまいます。
また、承諾なしに建物を売却した場合、買主であるCさんには土地利用権がないので建物を取り壊さないといけなくなりますが、建物には相当の価値があることが普通なので、経済的な損失も大きいです。
そこで、法律は、地主が承諾しない場合に裁判所が代わりに譲渡や転貸の許可を出すことができる制度を作りました(借地借家法19条1項)
借地権譲渡承諾に代わる裁判所の許可をもらうためには、訴訟手続きを利用する必要があります。
そこで、本件でもAさんはBさんに対して訴訟を起こし、借地権承諾に代わる許可を認めてもらえたら、Bさんの承諾がなくても買主に建物を売却することができるのです。
3.どんな場合に承諾に代わる許可が認められるの?
AさんがBさんに対して借地権譲渡の承諾に代わる許可を求めた場合、必ず認めてもらえるものなのでしょうか?
どのような基準で裁判所は許可をするかしないかを決定するのか、その判断基準が問題です。
借地権の承諾に代わる許可を裁判所が認めると、地主には一定の影響が及びます。
それまでとは異なる借主になるので、今後きちんと地代を払ってくれるのかも不安ですし、たちの悪い人が借主になってしまうかもしれません。
そこで、借地権の承諾に代わる許可を出す場合、地主の利益も考えなければならないのです。
そこで、法律上は「借地権設定者(地主)に不利となるおそれ」がない場合に許可を認めるとしています。
具体的には、前提として、新しい借主(建物の買主)に、充分に地代支払い能力があることが必要です。
買主に資力がなかったりして地代支払いに不安がある場合には、承諾に代わる許可が認められません。
また、新たな借主の土地利用方法に問題が予想されないことも必要です。
たとえば、Aさんが知り合いのチンピラや暴力団関係者に建物と借地権を譲渡しようとしても、承諾に代わる許可は認められない可能性が高くなります。
本件でも、Aさんの建物の譲渡先であるCさんが、普通の一般個人のサラリーマンなどの場合には、承諾に代わる許可が認められる可能性が高くなります。
Aさんが息子と同居していて、息子に借地権を譲渡するようなケースでは、譲渡があっても実際には土地利用状況がほとんど変わらないことが予想されるので、借地権譲渡に代わる許可が認められる可能性はさらに高くなります。
4.Aさんは借地権譲渡承諾料の支払が必要?
地主に不利益がなかったら承諾に代わる許可が認められるとしても、AさんはBさんに承諾料を払う必要はないのでしょうか?
一般的にも借地権を譲渡する場合、地主に承諾料を支払っているイメージがあるので、気になる人も多いでしょう。
実際に、裁判手続きによって借地権の譲渡承諾に代わる許可を認めてもらうときにも、借地権譲渡の承諾料の支払が必要になることがあります。
ただし、これは必ず必要というものではありません。
借地権譲渡承諾に代わる許可が出ると、地主は強制的に借地権譲渡に応じさせられるので、一定のデメリットがあります。
そこで、一定のケースでは「正当事由」として承諾料が要求されます。
承諾料を支払うことによって「地主にとって不利益がない」という許可の要件が認められることも多いです。
つまり、承諾料の支払いがないなら「地主にとって不利益がある」けれども、承諾料の支払いによってその問題をクリアできるという考え方です。
本件で、Aさんも裁判手続き内で借地権の譲渡に代わる承諾を認めてもらうことができましたが、承諾料の支払いが必要になりました。
その金額は、底地の借地権評価額の1割程度ということになり、具体的には100万円の支払をしました。
Aさんは、裁判によってお金の支払いが必要になるとは考えていなかったので、意外でしたが、建物を売却するためには仕方がないと考えて、これを支払って裁判所に譲渡承諾に代わる許可を出してもらいました。
こうして、Aさんはようやく建物を買主に譲渡することができ、妻と一緒に引っ越しをすることができました。
なお、本件のように、承諾料の金額は借地権評価額の1割程度が標準とされていますが、個別のケースによっても異なります。
また、Aさんのケースでは他人への譲渡だったので承諾料が必要になりましたが、これが相続人予定者である息子への建物譲渡だった場合などには、承諾料は不要になる可能性が高くなります。
借地権を譲渡するときには、借地権の買取業者を利用するのも一つの手段です。
下記ページもご参考くださいませ。不動産業者であれば、地主との折衝、承諾料の話し合い、借地非訟の手続きの費用や手間などもすべて請け負ってくれます。
5.承諾に代わる許可が認められなかった場合はどうする?~建物買取請求権~
本件ではAさんは裁判所に譲渡承諾に代わる許可を認めてもらうことができましたが、必ずしも許可が認められるとは限りません。
承諾料の支払いに応じず、許可が下りないこともあるでしょうし、買主の資力不足などが原因で許可が下りないこともあります。
このように裁判手続きを利用しても、借地権の譲渡ができない場合、Aさんはどのようにしたら良いのでしょうか?
この場合、困るのはAさんではなくAさんから建物を買った買主です。
このままでは、せっかく建物を買ったのに、利用権がないので建物を取り壊さなければならず、大変な損失となるからです。
このような場合、買主は、Bさんに対して「建物買取請求権」を行使することができます(借地借家法14条)
建物買取請求権とは、建物の買主である第三者が地主に対し、建物の買い取りを請求することができる権利のことです。
通常建物にはそれなりの価値が認められますが、借地権譲渡に代わる許可が下りない場合、高額な建物であっても収去(取り壊し)が必要になって経済的な損失が大きいことから認められる権利です。
建物買取請求権を行使されると、Bさんは買い取りをしなければなりませんが、それが嫌なら譲渡承諾をするしかなくなります。
つまり、自分で建物の買い取りをするかを選ばなければならなくなるのです。
そこで、Aさんは、Bさんに承諾を依頼する際、この建物買い取り請求権のことも説明しながら交渉をすると、承諾を得られやすくなることがあります。
建物買取請求権は、地主の承諾を得るための交渉材料にもなりますし、裁判を起こしても借地権譲渡承諾に代わる許可が認められない万一のケースに備えて、是非とも覚えておくと良いでしょう。
以上のように、他人の土地上に建物を建てて借地権設定をしている場合、建物の譲渡や転貸の際に大きな問題が起こることがあります。
裁判手続きは大変な負担がかかりますので、自分一人ですすめることは難しいです。
わからないことがあったら、お気軽に当社までご相談くださいませ!